尹氏八卦掌とは

八卦掌始祖である董海川の大弟子であり、開門大師兄と言われる尹福(1840~1909)※読み:yin fu(イン・フー)/いん・ふくおよびその直系伝人による八卦掌の伝承体系を指します。

かつては尹福が武館を構えた場所が紫禁城の東に在ったことから「東城八卦掌」とも呼ばれました。同じように「南城八卦掌」と呼ばれた程庭華の八卦掌が広く一般市民が学べたことで世界中に広まっていったのに比べ、尹福の場合は宮廷の護院に勤務した関係で警護に携わる者か、宮廷に関わる良い家柄の者などごく一部の者しか学ぶことが出来なかった為に伝人は決して多くはありませんでした。そのため昔も今も、尹福や尹式八卦掌の名と実力は中国全土でも大変有名にもかかわらず、尹氏の八卦掌については殆どその姿を見た者がないという「幻の技撃術」とされています。

尹福は八卦掌を学ぶ以前より羅漢拳や弾腿などを修めており、その影響からか、尹式の八卦掌では四指を揃えて伸ばし、親指のみを内側に折り込んだ『牛舌掌』(ぎゅうぜつしょう/niushizhang)を主に使用します。尹福の門下からは馬貴・宮宝田・崔振起・曹鐘昇・何金奎・門宝珍など幾人もの達人と呼ばれた伝承者が輩出されましたたが、同じく尹派の拳でありながらも、それぞれの伝承内容は必ずしも同じではありません。これは各伝人の体格や性格、基礎となった拳術の功夫などによる自然な(または意図的な)変化や、他派との交流による混雑、個々の長年の研究による取捨選択や増補の結果と推察されます。
※推察はあくまでも個人的見解です。

なお、王尚智老師の伝える尹氏一族直系の八卦掌では(尹福の娘・尹金玉、その夫であり尹福の得意弟子であった何金奎、そして尹福の四男・尹玉章の伝承を指す)走圏を以て修練する事自体は他派の八卦掌と同様であるもののその風格や練法の要点には多くの差異が見られ、歩には「自然歩」が求められます。また、円周を歩きながら行う古伝の『転掌』においては一般の八卦掌とは大きく趣の異なる技術体系が特徴のひとつであるともいえます。(単換掌・双換掌と呼称する技術はありません)套路(型)も他派には存在しない独特なものが多く、その殆どは直線的に進行します。
(注:当門は一般的に尹派の特徴として語られることの多い「六十四掌を中心とする伝承方式」ではありません)

王尚智師父プロフィール

八卦掌第五代伝人
尹氏八卦掌 嫡伝第四代伝人

幼い頃より家庭の良き影響で八卦掌を酷愛する。
父の王敷は、八卦掌創始者である董海川の大弟子であった尹福の子、尹玉章より尹氏八卦掌の精髄を深く得た。
幼少から、父の厳格な監督の下で苦練し、1960年には尹福の外孫である何忠祺に拝師して何忠祺の唯一の親伝弟子となった。
拝師時、何忠祺先生は50余歳、まさにその功夫は炉にともる青い炎のごとく最高水準の時であった。
足腰の身法は霊活で変化に富んでおり、それゆえ王尚智は一招一式の動作や姿勢を正しく練ることができた上に尹式八卦掌の転掌、散手、そして多くの套路にも熟達し、その手法は細やかで変化に富んだものとなった。
尹氏八卦掌は元々、主に皇宮の大内や王府の中でしか伝えられておらず、民間にて教えることは、とても少ないものであった。ましてや弟子をとることについては条件も厳しく、非常に厳格だった。
門を閉じて(人に見られないよう隠れて)練習することも、尹式八卦掌の伝播と普及の妨げになってしまい、継承者のほとんどが高齢になっていったことで、ついには完全な形で系統的に弟子に伝えてゆくことが困難になってしまった。
若い世代でこの事実を知る人は、ほんの僅かでしかなく、これを憂いて現在では国外の人間にも門戸を開き、尹氏八卦掌の伝承伝播に努めている。

積田 強剣プロフィール

尹式八卦掌 正式入門弟子
第五代 積田 強剣

東京に生まれ育つ
幼少より空手・少林寺拳法を経て17歳より中国武術を学ぶ。
一時は武術から離れていたが、林陽師姐との出会いをはじめとする奇跡の連続のような良縁によって、初来日した尹氏八卦掌第四代嫡伝・王尚智老師に入門。
学生として訪中学習を重ねる。
2010年3月、多くの人に支えられ北京にて正式に拝師。
日本人として二人目の尹氏八卦掌第五代正式弟子となる。
2016年、王尚智師父より直々に「強剣」の名を授かる。
現在、日本における尹氏八卦掌発揚活動のため研鑽を重ねております。

林陽(リンヤン)プロフィール

一水空創始者
尹氏八卦掌 東京教室 名誉顧問
林陽(リンヤン)

北京出身。
西太后の衣食住を管理する内務府大臣であった厲家菜(レイカサイ)初代を祖先に持つ。
宮廷武術尹氏八卦掌直伝五代目伝人。

日本に渡り、東京で大学/大学院時代を過ごす。
結婚を機に兵庫に移住、その後、渡米。現在はアメリカのユタ州在住。

東京家政学院大学工芸文化学科、東京学芸大学院美術教育修了。
この間、宮廷21式呼吸法を学ぶ。

大学院在学時、専攻した美術教育的な観点から受け継いだ呼吸法との繋がりを見いだし、身体文化や身体の感覚により深い意味があることに気づく。
それまでの自らの鍛錬と研究を元に、「一水空メソッド」を考案。
その普及と尹氏八卦掌の伝承の為、日本・ 中国・アメリカ各地で講座やイベントを開催、精力的に活動中。
現代における伝統文化を通した新たな社会貢献をライフワークとしている。